海老沢歯科・矯正歯科院長ブログ

266万円もする薬

ワクチン接種

近ごろ、びっくりするほど高額な薬が、病院で保険の治療に使われています。知ってますか?
たとえば、オプジーボという肺がんの薬は、1回あたり133万円、1ヶ月でひとりあたり266万円です。
本来266万円のコストが、薬のみでかかっているのですが、保険適用になっているので、患者さんの自己負担は安い人だとたったの1万2千円です。
残りの約265万円は、公費で負担されています。

次々とこんな薬が出てきて、どんどん使われていたら、保険医療が破綻するのではないかという番組が放送されました。

クローズアップ現代(NHK)「あなたはどう考える “高すぎる”新薬で医療崩壊?」

 

なぜ医者は高額な薬を使うのか?

いくら効果的な薬でも、高い薬をむやみに使っていたら、お金が無くなるのは誰でも想像が付きます。

月に266万って。
頭おかしいんじゃない?って思う人もいるでしょう。

そんなの払える人なんて、そうとう稀ですから、使う人がたくさんいたら、当然お金は足りないでしょう。

医者がどうしてそんなに高い薬を使うかというと、シンプルに「効く」からです。
薬の値段は関係ないのです。
目の前に苦しんでいる患者さんがいます。患者さんに有効な薬なら、高額でもなんだって使いたい。
もし規制が無かったら、認められている有効な治療法を、際限なく試そうとするのが医者なんです。
これは、患者さんも一緒です。

だから、お金が足りないという話は、払う側の人もよく考えないといけません。
払うのは、税金や健康保険料を払っている、健康な人です。

 

お金と健康が両立するのか?

「予防医療で医療費を減らそう」という話をする人もいます。そういう人の理屈は、

はじめにお金がかかるけど、後で病気にかからなくなるから、結果的に安くつく
だから、予防は治療より効率が良い

というものです。
わかりやすいですね。

しかし、専門家の調査では、予防医療サービスの中で医療費削減につながるものは20%程度であり、「予防医療が医療費削減につながるというのはマユツバ」であるということがわかっています。

Does Preventive Care Save Money? Health Economics and the Presidential Candidates
Can Disease Management Reduce Health Care Costs By Improving Quality?

 

さらに、長生きしたら、もっとお金がかかる病気にかかったり、生活のためのお金がもっと必要かもしれません。
将来のお金の話だけを考えるなら、医療制度を無くした方が良い可能性すらあります。

実は、ほんとうに議論しないといけないのは、今かかるお金と将来のお金の削減効果だけではなく、「健康上のメリットそのもの」を含めたコストの話なのです。

具体的な話にするなら、たとえば、「亡くなったり寝たきりになるはずだった人を、健康な状態で1年長生きさせるのにいくらかかるのか」などです。
その価値が、多くの人に認められるなら、お金がかかっても良いことになるし、価値の割にお金がかかりすぎるなら、それは問題なのです。

 

1年長生きするコスト

ある治療を行う、ある薬を使うなどで、1年長生き出来るとしたら、そのために人が支払っても良いと考える値段は、実はある程度調べがあるようです。
寝たきりで長生きする場合と、健康に近い状態で長生きするのでは、もちろん価値が違ってくるので、その差も換算しないといけません。

日本をはじめ欧米の先進国では、比較的健康な状態で1年長生きするために、人が払っても良いと考える金額の上限は、およそ500万円だそうです。
韓国ではおよそ200万円、タイではおよそ50万円など、国によってその価値感は変わります。

 

大事なのは費用対効果

お金に限りがあるのですから、なんらかの基準を作って、治療に使うものと使わないものを決めなくてはいけません。
薬だとすると、既存の薬で安いけどあまり効かない薬と、新しく発売された非常に高額だが効く薬。どっちを使うべきでしょうか?

実際には、費用対効果を数字にして比較しないとはっきりしません。
治療の費用対効果をどういう基準で計算するか、非常に難しい取り組みなのですが、各国で徐々に研究が進んでいます。

「健康な状態で1年長生きさせるのにいくらかかるのか」というような基準で検討すると、最近使われ始めた高額な薬は、意外にも、人々が払っても良いと感じる500万円以下になるものが多いようです。

逆に、従来から使われている安価な薬の中には、効果が薄いのに大量に使われていて、500万どころかとんでもなく高くついたりするものも少なくないようです。
ほんとうに使うのをやめた方が良いのは、そういう既存の安い薬ということになります。

直感的に「高すぎる」と感じても、きちんと費用対効果を検討することの重要性がよくわかりますね。
お金の高い安いだけではなく、その効果もきちんと検討して「高いけど価値があるもの」を大事にしないといけません。
お金のことだけ考えていると、「安物買いの銭失い」になる可能性があるのです。

 

 

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