矯正治療で全身に深刻な副作用があるという記事を見かけたので調べてみました。
記事には、以下のようなことが書かれています。
「矯正治療でかみ合わせが変わることにより、全身に深刻な影響があることが少なくない」
「矯正治療はかみ合わせを整えるのが目的だが、いつの間にか見た目をキレイに揃える歯並び矯正になった」
矯正治療でかみ合わせが変わることにより全身に影響がある?
「咬み合わせを変えたら体が不調になった」という論文を探すと、いくつかは見つかったのですが、それぞれ1症例などしか載っていないような症例報告でした。
また、成人矯正治療後の全身の不調についての論文は、見つけることが出来ませんでした。
逆に、顎関節に症状がある人の治療をどう行うかに関しては、しっかりしたガイドラインがあります。
インターネット上では、咬合調整によって全身の不調が引き起こされたとする医療消費者の質問などが散見される。
しかし、学術論文にそのような症例報告は、ほとんどないようである。体の不調のみに対して、歯を削ってのかみ合わせの調整は行うべきではない。
痛みがある場合は、上のマウスピースを使用した治療を行っても良いが、はっきりした効果がある証拠はない。
大部分は経過観察(要するに何もしないということ)で予後は良好である。日本顎関節学会「顎関節症初期治療のためのガイドライン」2012年
不調の原因はストレス?
エビデンスが無いので「わからない」という結論になるのですが、咬み合わせだけではなく、様々なことが関係した結果から不調になると考えるのが自然のようです。
顎関節に痛みがある方には、心理学的要因、行動学的要因の関連が疑われるという研究がありました。
来院する顎関節症患者数は、10代後半から急激に増加し、20~30代にピークを迎え、以降加齢とともに減少する。
悩んでいる期間・障害の程度・痛みの程度といった症状より、むしろ、心理的要因や行動学的要因の関連が疑われた。
東京医科歯科大学による研究
問題の一部には、ストレスなどの心理的要因も関係している可能性がありそうです。
体の許容範囲
人はそれぞれ体の変化に対する許容範囲があります。
普段は、多少の問題があっても適応能力で順応します。
しかし、問題が大きかったり、何らかの原因で抵抗力が落ちると、不快症状が出てくるということになります。
これは、たとえば水が入ったコップがあって、満タンになるとこぼれるというようなイメージが良いかもしれません。
日常的な問題やストレスが小さくて、コップに水が少ししか入ってない人だと、ある程度の問題が起こっても水はあふれません。
しかし、水がギリギリまで入っているコップの人だと、少しの量の水が足されるとあふれてしまう。
そんなイメージでしょうか。
問題は複合的な理由?
「咬み合わせが悪い→体の調子が悪くなった」みたいな、単純な話ではないようです。
成人の矯正で咬み合わせがおかしくなったせいで全身が不調になった。と決めつけてるのは、ちょっと怪しい?と考えるしかないでしょう。
そうしたケースは、実際にいくらかあるのかもしれませんが、幸いな事にわたしの歯科医院では今のところ皆無です。
困ってる人がいっぱいいるなら、しっかりした論文が出てるはずですから、それほど多くの例があるような話では無さそうです。
見た目の改善のための矯正はしないほうが良い?
歯科矯正学の教科書を見ると、矯正治療の目的として、咬み合わせの改善とともに、見た目の改善もしっかり書かれています。
むしろ、患者さんの動機としては、見た目の改善の方がずっと多いと思います。
治療をするかしないか
どうして歯科治療を行うかを考えると、それは患者さんが解決したい問題があるからです。
歯科医師は、治療を行うことについてメリットとデメリットを考え、メリットのほうが上回る場合に治療を行います。
たとえば、むし歯や歯周病などで痛みがある場合に、治療を行わない選択をすることはあまりありません。
もし妊婦だとしても、すごく痛いのに放置することはできませんから、できるだけ安全な方法を取りながら治療を行うわけです。
見た目の改善を希望する患者さんの動機も、実は非常に大きなものです。
歯並びをキレイにすることで、仕事や人間関係など、社会的に大きな変化が訪れたり、気持ちが前向きになって人生が充実することもあるのですから、軽視することは出来ません。
当院でも、矯正治療を受けたことで自信が付いたとか、結婚が決まったと、うれしそうに話してくれる患者さんがいらっしゃいます。
見た目の改善を目的とした大人の矯正治療には、大きな意味があるのです。
矯正治療で調子が良くなったケース
矯正治療による咬合改善で健康を回復し、現在では2人の子供に恵まれ、幸せな家庭生活を送っている
というようなものもいくつか見つかりました。
実際には、かみ合わせを治療したら「良くなった」「悪くなった」どちらの報告もあるようです。
あまり頻繁に無いことを、ことさらに強調している記事を見かけると、やはり心配になる方もいらっしゃるでしょう。
もちろん、めったに無いとしても、可能性はゼロではありませんから心配はもっともです。
しかし、治療をした場合のメリットが大きいと考えられる場合は、ごく小さな可能性を心配して消極的になるのは、機会を損失することにつながるかもしれません。
動機がどのくらい大きいかが、治療を行うのかどうかを決定するのだと思います。