海老沢歯科医

インビザラインの料金トラブル

2022年10月11日 公開
2023年1月27日 最終更新日

(2022年10月11日公開、2023年1月27日更新)の記事になります。

インビザラインの治療において、「のちほど全額返金して、治療料金を無料にします」と言って勧誘し、いったん100〜150万円の支払いをさせたものの、その後返金されないトラブルが東京であったようです。
被害者は1000人以上で、総額10億円を上回るらしいです。

こんな詐欺みたいな話を信じる方も信じる方ですが、騙したのが歯科医師となると、わたしも心が痛みます。
被害を受けた方には、同じ歯科医としてほんとうにやるせない気持ちです。

実は2-3年ほど前から、この話は患者さんからの情報で耳にしていました。
「150万の支払いをして、治療をスタートする。SNSや口コミでPRしてくれたら、1年後から2年かけて分割で全額を返す」という話。
「広告宣伝費」と言うことなんでしょうが、お金で口コミを作って宣伝するということかと、ほんとうに不誠実だと感じました。

 

10年以上前に、「フリー」という書籍がベストセラーになりました。
わたしやわたしよりちょっと下の年代の歯科医師の多くが読んだ書籍だと思います。
無料のものから価値を生み出すという内容でしたが、要するに、広告宣伝のために無料でサービスを提供するというコンセプト。数を集めることに価値を見出すというものです。
トラブルになった歯科医院は、こういう本に影響を受けて、価値の高いものを無料で提供するということの意味を誤解してしまったのでしょうか。

 

フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略

 

さて、料金設定をどうするかは、大変難しい問題で、いつも悩んでいることです。
わたしがマウスピース矯正を始めたのは、もう20年以上前になりますが、インビザラインに取り組んだのは7年前です。
その頃から、細かい部分には多少の変化があったとはいえ、大まかには同じ金額で治療を行っています。

当時は、周辺の歯科医院に比べて、かなり安い価格設定だったと思います。
まだインビザラインに取り組んでいる歯科医院も限られていましたので、少し高く設定しても患者さんは来てくれたでしょう。
しかし、今の値段に決めたのは、「適正な料金」ということにこだわったからです。

矯正治療という数年に渡るお付き合いになることに対して、途中でその値段が下がったら、あなたはどう感じますか?
わたしだったら、あまり良い気持ちにはならないと思います。
「高く買ってしまった」と損した気分にもなるでしょう。

今は高くしても売れるからと、高く始めるのは良いのですが、後で患者さんに申し訳なく感じるのは嫌だ。ということで、利益が出るギリギリに値段を設定しました。
「数がいっぱい出れば、安く提供できる」という考えで、安くするという方向性の歯科医院もありますが、それは競争の中でいつか破綻する考えです。
実際に、「数を集めるために無料でやる」というやりかたは、見事に破綻しました。
わたしは、一人ひとりに対しての適正な利益を考えることが重要だと考えました。

 

現在は円安が進んでいて、すべての物の値段がどんどん上がっています。
値上げ幅は、2割3割当たり前の時代です。
iPhoneも、日本の値段設定は今では世界一に近い安さらしい。
アメリカに本社があるインビザライン社も、いつ大幅な値上げの通知をしてきてもおかしくない状況でしょう。
ギリギリでやってる当院は、そうなったら値上げは間違いありません。

インビザラインを、適正に治療に生かそうと思うと、当院でこれ以上安く提供するのは無理です。
どんどん安売りの歯科医院が出てきます。
患者さんにとっては、安いことはすごく大事ですし、タダだったら一番良いのが当たり前です。
受けられるサービスが同じで、ずっと継続してそこに存在すれば、という仮定での話ですが。
難しい問題ではあります。

 

(追記)
問題の歯科医院は「デンタルオフィスX」という東京や他都市に多店舗展開していた新興歯科医院グループ(閉院)。
TV報道では、技術トラブルもあるように印象付けされていましたが、単なる金銭トラブルです。
問題の歯科医院が閉院してしまったため、治療が途中になっていて、継続できなくなっているということです。

インビザラインの場合は、転医制度があり、マウスピースを作ってもらう権利(インビザライン社にトレーを製作してもらう権利)を、他の先生に引き継ぐことができますが、技工費とは別に、治療費は新しい先生に適正な価格で支払う必要があります。
矯正治療の場合は治療期間が長期にわたりますので、通常は、技工のための費用より、医院の管理費の方が大きくなります。
ですから、転医の場合も、最初ほどではないとしても、一定の大きな金額が必要になるでしょう。

しかし、今回の問題はインビザライン社にも一定の責任があると思われます。インビザライン社の協力のもとに、他のインビザラインを扱う先生たちも、何らかの形でフォローをするのが良いのではないかと、個人的には考えます。当院も必要に応じて、できるかぎりのお手伝いはしたいと考えています。